人材育成を企業にお届け

- センター職員が講師を務める(中央が田中所長)
2階から竹とんぼのような紙を落としては落下時間を計り、また別の紙を落とす―。
遊びのようにも見えるこの研修は「出前講座」の一コマだ。出前講座とは企業へ人材育成を「出前」する、同センターが胸を張る企業支援プログラムだ。職員が講師となり、1日完結型から6日間にわたるものまで全18講座を提供。メニューは食品加工や金属材料技術、分析技術、電子情報技術、デザインなど幅広い。2008年度にスタートし、09年度は年間目標50件を大きく上回る同72回を実施した。
「社外の講師が講義することで、企業側としては指導を受けいれやすい環境をつくれる」と、同センターの田中久所長はメリットを強調する。受講料無料というのも受け入れやすいポイントだ。もともとは職員が企業を訪問した際に出た、人材育成へのニーズに応えたもの。受講後に受講者が社内勉強会を開くなど広がりも見せている。出前講座自体がセンターの活動の成果でもある。
実践課題は「紙コプター」

- 設計・製造・検証を繰り返す
出前講座で引き合いが多いのが「品質工学講座」だ。品質工学は日本で生まれた学問で「タグチメソッド」などで知られる。モノづくりにとって有益であるにもかかわらず、一般的に技術に触れる機会は多くない。 カリキュラムは1日目に総論を講義で学び、2―3日目は実践を通して技術を身につける。冒頭の研修は海洋温度差発電装置メーカーのゼネシス伊万里工場(佐賀県伊万里市)での講座の様子。09年の受講に続き、出前講座を受講した。今回は開発部門や品質管理部門から全6人が参加した。
講座の最大の特徴は実践だ。旧ゼロックス(現富士ゼロックス)の品質工学実習から生まれた、「紙コプター」製作を実習課題として行う。紙コプターは細長い紙に切れ目を入れて折り曲げた竹とんぼ状のもの。紙の厚さや羽根の幅・長さ・角度など最大八つの因子の数値を変えた18サンプルで検証。落下時に安定して回転する形状を品質工学で求める。設計・製作・検証を繰り返し、適切な因子と数値の組み合わせから求める形状にたどり着く。

- 紙コプターで品質工学のメソッドを実践
受講者は「品質工学の名前は知っていたが具体的手法は初めて知った。実践することでよく理解できた。現場業務に生かしたい」と満足げだった。田中所長は「品質工学はベストなモノづくりの確認になる。考え方、意識付けの意味もあり、もっと広めたい」と意気込む。
意識改革で現場改革
品質工学講座はあくまで出前講座のメニューの一つ。だがモノづくりの意識を変えるこの講座をメニューに持つ意義は大きい。品質工学はモノづくりを「課題解決型(再発防止)から技術開発型(未然防止)へ転換する」(田中所長)技術。開発では後工程になるにしたがい、不良発見と改善活動にコストがかかる。設計段階から不良が出ないモノづくりをすることで、コスト削減に貢献する。またライン設計など現場改善にも応用でき、広く導入できる技術でもある。
開発スピードが求められる時代に「旧来の『まず作らせてみる』人材育成では限界がある」と田中所長は話す。やみくもな試行錯誤ではなく、論理的な確かさを確認できるアプローチが必要とされていると強調する。
中小企業が不況の中で生き残り、発展を目指すには技術力の底上げが不可欠だ。同センターが掲げるミッションは「企業貢献度の向上」。小規模だからこそ顔が見え、外に開かれたセンターを強みに、積極的に外へ出て行くことで佐賀県のモノづくりを支えている。
【地域メモ】
佐賀県の主要産業は半導体と自動車関連。伝統産業の窯業も有名だ。最近は農商工連携や環境分野など新規分野への参入が進む。佐賀は江戸時代に国内初の実用反射炉を建設した土地。先人の意志を受け継ぎ、先進的モノづくりの気風が漂う。
取材:三苫能徳(西部支社)









