全国高校生溶接コンクールの足がかり
溶接競技の甲子園となる全国大会を大分県で開きたい-。江藤博明大分県溶接協会事務局長はそう熱弁を振るう。全国規模で広がる高校生を対象にした溶接技術の競技大会の火付け役は大分県。若年層の技能離れが指摘され、モノづくり技術の継承が困難になりつつある今日。溶接技術向上と溶接技能者の育成が競技大会の目的だ。
現在、競技大会は群馬県や愛知県など約15県で開催。地区別では2009年に高校生ものづくりコンテスト・溶接作業部門で中国大会、10年4月に「第1回関東甲信越高校生溶接コンクール」がそれぞれ開かれた。九州地区は8月末に、福岡県で県大会を開催。大分県、長崎県に続き、3番目となる。
江藤事務局長は「競技に臨む生徒たちの表情がりりしい。溶接技能の普及は着実に成果を出しており、全国大会に向けた機運も高まっている」と喜んでいる。
高まるモチベーション
大分県が九州各県に呼びかけ「第1回九州地区高等学校ものづくり溶接競技大会」を開いたのは08年。すでに県内では05年に県立日田林工高校で校内大会が実施されたほか、06年からは県商工労働部と県内高校が連携して「大分県高等学校溶接技術連絡協議会」が発足した。同年に県大会となる「第1回大分県高等学校ものづくり溶接競技大会」も実施した。
日吉弘典日田林工高教諭は「クラブ活動などの課外活動と同様に溶接技術の練習が校内で定着している。モノづくりに対する生徒のモチベーションは高い」と話している。これまで過去の競技会に参加した生徒の中には「溶接分野で技能五輪に出場し、世界大会を目指したい」(日吉教諭)と意気込む生徒もいたほどだ。
ただ当初は溶接が造船や自動車、建設などのあらゆる構造物で重要なモノづくりの高度基盤技術であったとしても、教育現場では実習科目の1つにすぎず「教職員もJIS溶接技能評価試験を受験して生徒を指導することは少なかった」(同)という。
現代の名工の熱血指導
県内で溶接が注目され、火が付いた背景は、04年にアーク溶接工で厚生労働省の「現代の名工」に選ばれた山下順一山順工業(大分市)社長の「熱心な技術指導があったからこそ、溶接が再び息を吹き返したのだ」と関係者は口々にいう。
溶接は「リズム」「忍耐力」「集中力(思考力)」と実技を交えながら、高校を訪問指導する山下社長の技術に生徒は興味を覚え、生徒の技能が向上するとともに教職員の指導にも熱が入った。
10年8月大分高等技術専門学校(大分市)で5回目となる県内大会が開かれた。団体、個人戦の2部門に県内9校、男女41人の生徒が参加した。
江藤事務局長は「高校生の技術力も年々、向上し、女子の活躍も目を見張る」と誇らしげだ。会場は溶接の火花とともに、ライバルに見入る生徒間の火花も散る熱戦。競技後に陳列される作品を見ては喜びの涙を流す生徒、肩を落とす生徒もいるなどさまざまだ。
団体戦で最優秀賞を受賞し、県代表として九州地区大会に臨む日田林高機械科3年生の穴井雄基さんは「優勝を目指したい」、同久米健人さんは「高校生活3年間頑張ってきた成果をぶつけたい」、同堀琢哉さんは「リズムと集中力を注視して実力を発揮したい」と意欲を燃やす。
日吉教諭は「溶接競技大会は単に溶接技能の向上に限らず、生徒のやる気や自信を高める大きな原動力になっている」と評価する。また「就職して社会人1年目で大人顔負けの技術を持った生徒は職場で注目され、やりがいを持って仕事に励んでいる」と教育効果にも大きな期待を寄せている。
【地域メモ】
大分県は半導体、自動車関連企業などが進出し、産業集積地を形成する。近年はモノづくり産業を支える若年層の人材育成にも注力。県内企業の即戦力として優秀な人材確保にも余念がない。県内工業系高校生の就職内定率も高く、約8割の高校生が県内で就職している。
取材:廣木竜彦(大分支社)









