<表の世界>を拡大させる努力こそ、ゼロ災害体質の職場づくりへの近道
筆者が考える、安全確保における三種の神器は危険予知、指差呼称、そしてヒヤリハットである。中でも特に重要なのは、作業者から提起されてくる危険情報としての、ヒヤリハットであると思う。危険予知や指差呼称は、現物現場における危険個所の確認と、危険の回避を行うのが主な目的であるが、ヒヤリハットの活動は、職場に潜む危険そのものを減少させることを最終目的としており、本質的な現場の安全化に直結する。
しかし、現場に顕在する危険情報は、簡単に得られるものではない。管理監督者自身が、現場巡回や作業ウオッチングなどの活動を通じて、職場に潜む危険情報を見つけ出し、改善に結び付けることは大切ではあるが、四六時中管理監督者が現場に張り付いているわけにはいかない。危険情報が潜在したままであったため、災害になった事例は数多くある。その事例を1つ紹介しよう。それは、24 インチのロールに取り付けられたカッタ-装置の駆動チェーン部で起きた。チェーン部には安全カバーがあるが、カバーの横の部分にゴム屑が溜まるので、作業者の判断でゴム屑を清掃することが慣行になっていた。しかし、このことは、管理監督者には知らされていなかった。被災者が山盛りのゴム屑を除去しようとしたとき、軍手がスプロケットと駆動チェーンの間に巻き込まれたのである。安全カバーがあるのに、なぜ軍手が持っていかれてしまったのだろう。
実は安全カバーの裏側には小さなすき間があったのだが、管理監督者はこのことも知らなかった。また、従来から、マシンを未停止のまま清掃をしていた事実も判明した。これだけの危険な行為が続いていれば、事故は起こらないほうが不思議だ。「このくらいなら...」「今まで誰もケガをしていないから...」などの安易な気持ちが、現場にはあったに違いない。作業者が危険を危険と認識できなければ、危険は永久に潜在したままである。
図は、自分自身と第三者とのコミュニケーションを領域化した"ジョハリの窓"を、危険情報に置き換え考えてみたものである。管理監督者が知って(見えて)いるのは、<表の世界>と<裏の世界>であり、作業者が知っているのは<表の世界>と<秘密の世界>である。これらの他に、両者とも知ることのできない<未知の世界>が存在する。安全活動では、<秘密の世界><裏の世界>そして<未知の世界>をできるだけ少なくすることが、ゼロ災害を長く続ける秘訣であることは論を待たない。<秘密の世界>(作業者は知っているが管理監督者は知らない)については、常に危険の洗い出しを行い、視点を変える工夫をし、1つでも多く問題を<表の世界>へと移動させることが望まれる。
また<裏の世界>(管理監督者は知っているが作業者は知らない)については、日常の安全指導、現場巡回をはじめ職場内で進める安全ミーティングなどを通じて、管理監督者みずからが作業者に対して危険存在と危険回避の教育を継続することで、その領域を狭める努力が必要となるだろう。最も難しいのは<未知の世界>(双方ともに危険の存在を知らない)に対する対応だ。災害が起こった後に聞かれる言葉に、「まさか!」「こんな所で!」「過去にこんなことはなかった!」などがあるが、これらは、まさしく<未知の世界>で発生した災害時に聞こえてくる声なのだ。<未知の世界>に対応するには、職場に直接には関係のない人たちの協力を得ることが肝要となる。「視点の違う人によるウオッチング」「安全専門部署の現場点検」、そしてリスクアスメントに代表される「新たな安全の知見を学習する」ことが必要である。<秘密の世界><裏の世界>そして<未知の世界>をできるだけ狭くし、<表の世界>を拡大する安全活動を不断に進めることが、必要だ。危険情報は徹底的に洗い出し、あぶり出し、職場に潜む危険を1つでも減少させる努力を惜しんではならない。
ジョハリの窓
イラスト 小島 早恵
ブリヂストンに入社以後、現場管理監督者を経て1984 年より安全衛生を担当。
著書に『安全担当の実践学』(中労防)などがある。
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