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第51回 「ニーズはあるの?」

ものづくりデザイン講座

友人より、「金型を使ったアートができるか」という依頼がありました。金型についてはみなさまのほうがよくご存じだと思います。金型をつくるとき、どれくらい複雑な設計なのか、大きさなのか、いくつくらいの形をその型から取るのか、という条件などから1つの型が一体いくらなのか値段を算出することができます。

しかし、それにアートが加わると何を値段の根拠に考えればよいかわかりにくくなるので、一見ややこしい話に思えるかもしれませんが、その友人はそこに目を付けて相談に来たようです。

金型をつくる値段の相場は出来上がってしまっていて、海外からも競合に入ってきたら値段で対向せざるを得なくなることにアートで立ち向かおうとする友人に1つアドバイスをしました。「ニーズはあるの?」

金型の場合、その金型がなければモノをつくれない依頼者の強いニーズがあるからまだしも、金型をアートにするということは、その依頼者がモノをつくるときに必要がない要素と考えます。となると、アート性を持たせた金型は実用性は低く、オブジェとして扱われることになるでしょうが、一体そのオブジェを誰が欲しいかということになります。欲しい人を探せばどこかにいるかもしれませんが、「かも」では、まずやめておいたほうがよいと更にアドバイスをします。

技術者が、どんなにすばらしい技術であるといって研究開発をしても、世の中にそれを必要とするニーズがなければお金になりません。つまり趣味では稼げません。

なんとかして必死に研究開発をして、すばらしいと自分で思い込んでいる技術を、誰かはきっと望んでいるとさらに思い込み、買い手を探し回っている人を筆者はいままでに大勢見てきました。それと、このアートを金型に取り入れるということに、似たものがあるように思えます。

アート性を持たせた金型をデザインするのは、結構なことですが、そこにニーズがあるかどうかが鍵を握ります。アートの世界は技術や金型の世界と同様に奥深く、素人が思いつきでできるものではありません。

アートを金型に取り入れるということをするならば、いずれにしてもまずはそれでつくったオブジェにニーズがあるかをしっかりつかむことがなによりも先決です。なんでもつくってから買い手を見つけることほど難しいものはなく、ニーズがあるならば金型をつかったアートも是非すべきことであるし、アートを提供したいという人も探さなくても向こうから現れるでしょう。

あとがきByノトサチ

今回も最後までお読みいただきましてありがとうございます。アート性、デザイン性を持たせようとする背景に、単純に機能美を持たせたいという意図以外に、値段をわからなくさせる、つまり高付加価のためだという人も少なくありません。しかし、それでうまくいく人といかない人の差はアート性やデザイン性の完成度もさることながら、単純にそこにニーズがあるかどうかなのです。特にアート性やデザイン性のあるものは個人の好き嫌いという感覚で評価されることが多いので、なおさらニーズをつかんでいないものは買い手をあとから見つけることに骨を折ることになるでしょう。

能 登  左 知(のと さち)
株式会社サチコーポレーション 代表取締役
和歌山市生まれ。Kansas City Art Institute工業デザイン科BFA学士修了。現代経営論プログラム終了。帰国後、国・県・地方自治団体のデザイン経営専門家として創業における事業の見せ方についてアドバイスする。またその約1,500件の事例を全国各地でセミナー・講演活動している。
また、現在は工業デザイナーとして水素燃料電池からファッションアクセサリーまで幅広くデザインする日々を送っている。
www.sachicorp.com (サチコーポレーション)