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第55回 美大生が求めている機会

ものづくりデザイン講座

ニーズのある商品をつくろうとすると、まずどこに、どんなニーズがあるかを考えることが、まず最初にすることです。そこで、今日は私が美大生だったときにあったニーズについてお話しします。

突然ですが、質問です。美大生のニーズとはなんだと思いますか?

漠然とした質問かもしれないので、質問の仕方を変えます。

美大生は何に困っていると思いますか?

色々と人によって困っていることは違いますが、ほぼ全員に共通してあるのが、実社会での経験からなる作品をつくる機会がないということです。

ポイントは、実社会という部分です。大学でつくる作品というのは、先生から与えられた課題や、自主的に想定した課題に取り組んだものばかりで、趣味の域を超えた作品づくりが行えずいます。

例えば、デザイナーの場合だと、実際に既存の会社からパンフレットや、ポスター、名刺などの実社会で本当に使う媒体のデザインをしないことには、使い手の気持ちや用途にあったデザインはどうあるべきかが体得できません。

陶芸家でも同じことで、実社会で使ってもらえる、またはその作品に価値を見出し、お金という対価が得られないようでは、芸術家として認められたとは言えません。「素晴らしい!」と言って作品に高く評価はしても、「お金を出してまで欲しいわけではない」では本当の意味で高く評価されたということにはならないからです。

しかも、実際に美大生(私は米国のことしかわかりませんが)が就職活動をした先ので、「大学の課題以外のものを見せてください」と言われることはよくあります。そのアーティストの経験値がどれくらい高いのかは実際の仕事をみないと判断できないからです。

そこで、米国の美大などでは、大学も積極的に実社会の仕事を引き受け、それを生徒に受けさせて、彼ら彼女たちの作品づくりの機会をつくろうとしています。その場合、生徒なので、もちろんまだ経験も浅いのでコミュニケーションや納期などに問題は多少ありますが、その分費用を多少減額したりして、学生はできた実社会での作品を自分のポートフォリオ(作品集)に入れていき、卒業後の就職活動や、フリーランスで仕事をする準備をします。

ここに、美大、美大生のニーズがあり、困っている問題があります。その問題を解決するために、もっと積極的に美大生たちに実社会の機会を提供することが、既存の会社のどなたでもできることです。普段から積極的に美大の事務所などに、そのような機会があるという連絡をして関係を気づいておくことも良いと思います。

大切なのは、学生に頼むから低額で仕事が依頼できるというような安易な考えを持たないことです。彼らは先ほども言いましたように、コミュニケーションや納期などに合わせるスキルがまだ十分に備わっていないことがしばしばあります。

基本、美大はアーティストのの集団ですが、プロを育てる教育現場です。職業訓練場ではありません。教育の一つであることを十分理解した上で、ぜひ実社会の仕事の経験を美大生に対して機会を与えて欲しいと思います。

あとがきByノトサチ

今回も最後までお読みいただきましてありがとうございます。以前も学生のデザイナーさんとのお仕事の進め方についてお話したことがありましたが、今回は学生のデザイナーさんやアーティストの立場に立って、彼ら彼女たちが何を既存の会社との接点で何を求めているかについてお話させていただきました。確かに、私も大学卒業したてのころを思い出すと、この実社会での実績づくりに頭を悩ませました。営業先クライアントに見せるポートフォリオが学校の課題や宿題だと力量が把握できないといわれたこともあり、やっぱり学校と社会とのギャップがあり、それを埋めるためにはとにかく実社会での作品づくりしかないのだと、そのとき痛感したことを思い出しますね。

能 登  左 知(のと さち)
株式会社サチコーポレーション 取締役
和歌山市生まれ。Kansas City Art Institute工業デザイン科BFA学士修了。現代経営論プログラム終了。帰国後、国・県・地方自治団体のデザイン経営専門家として創業における事業の見せ方についてアドバイスする。またその約1,500件の事例を全国各地でセミナー・講演活動している。
また、現在は工業デザイナーとして水素燃料電池からファッションアクセサリーまで幅広くデザインする日々を送っている。
www.sachicorp.com (サチコーポレーション)