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第58回 そのデザイン、あなたは妥協せずにできるだろうか

ものづくりデザイン講座

スティーブ・ジョブズ氏の徹底したものづくりの姿勢は、皆の知るところです。私もジョブズ氏を尊敬する一人でして、彼のように妥協しないものづくりをしたいと常日ごろから思います。


その妥協しないデザインを続けることがものづくりをするときにどんなに大変か、その何が大変か、それは経験するとわかります。だから尚更ジョブズ氏のものづくりが偉業だったんだと、ものづくりとデザインをする私たちはそう思うのでしょう。


先ほどからデザインをする上で何が大変かとお話しましたが、「妥協しなけりゃいいじゃない」、そう思った人はまずなぜ妥協せざるを得ないか、その現実をご存知ですか。


私のケースでみると、妥協するときの流れはこうです。


クライアントの依頼を受けてデザイナー(私)はある形をデザインする(描く)
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そのデザインした(描いた)形の実物のサンプルを業者がつくることになりますが、 それはクライアントの知り合いの業者が大抵引き受けます。
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しかしその業者はデザインした形を実物に具体化する技術的な問題のため、 業者からデザイナーに妥協した形の案や他のやり方を提案して欲しいと依頼があります。
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その時、業者から出てくる妥協した案は、部分的な変更のみが多く、その部分だけ デザインしなおして欲しいと依頼がありますが、デザインは全体のバランスというもの も同時に考えることになるので、一からデザインしなおすことになります。
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デザインしなおした案に対し、もしまた業者から技術的な問題があれば部分的な 変更の依頼があったりしますが、また一からデザインしなおします。
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言わばこのくりかえしです。さすがに一からデザインしなおすにも限度がきて、そうする内にデザイナー(私)の方から質問をするようになります。


「そのサンプルをつくる機械は何(どんなデザイン)だったら現実的な形にできますか?」


この質問がおかしな話だということはわかりますが、そのような質問を私はしばしばすることがあります。機械ができるという範囲でデザインは考えたくはないですが、予算やクライアントのネットワークによって、止むを得ないこともあります。 世の中にあるものを眺めていると、似たり寄ったりのようなものも見かけますが、きっとそれも製造する機器やプログラムが「できる」、「できない」という範囲の中で自由なデザインをしているのだと思います。もちろん、それが自由なデザインか?!って議論はつきませんが。


この事態を打破するにはどうすれば良いかー、どう考えてもまずはその業者依頼の時点で知り合いというだけでプロジェクトを進めてしまわないということだと思います。何の条件や範囲を持たせずして出てくる自由な発想のもとにできるデザインを、忠実に実現できる業者の選定がまずは現実的な一歩なのでしょう。

デザイナーはあくまでもクライアントの望む表現の代行者ですので、その意向を形にする使命達成の阻む機械などの可能性の範囲という見えない壁を超えることが、デザインする上で一番難しいです。


だからこそ、妥協しなくてはいけない要素などは事前に回避できるものはしておくことは絶対であり、そうすることにより、イメージをそのとおりに実現できる一人であるジョブズ氏に近づけることでしょう。




あとがきByノトサチ

今回も最後までお読みいただきましてありがとうございます。今回は私自身もよく直面する妥協の場面をお話させていただきました。依頼主とその取引業者というのが既にいる場合、デザイナーとして関わる私はある条件の中でデザインすることになりますが、その場合ほとんどと言って良いほど、妥協を強いられることがあります。予算面の話しであれば、その中でできるデザインの工夫につながりますが、技術的に領域に達していないクライアントお抱えの業者さんとのお付き合いの場合、その業者が抱える機械やアプリケーションでできる範囲のデザインをすることになるので、その場合のデザインは、デザインするというよりも、消去法のデザインです。つまり、最後に残ったできることがデザインなのです。それをデザインというか、みなさんはどう思いますか。

能 登  左 知(のと さち)
株式会社サチコーポレーション 取締役
和歌山市生まれ。Kansas City Art Institute工業デザイン科BFA学士修了。現代経営論プログラム終了。帰国後、国・県・地方自治団体のデザイン経営専門家として創業における事業の見せ方についてアドバイスする。またその約1,500件の事例を全国各地でセミナー・講演活動している。
また、現在は工業デザイナーとして水素燃料電池からファッションアクセサリーまで幅広くデザインする日々を送っている。
www.sachicorp.com (サチコーポレーション)